五右ェ門
えー、お後がよろしいかどうかはわかりませんが、今日は釣りのお話をひとつ。
釣りにもいろいろありましてね、ルアーで釣る、エサで釣る、時には心で釣る――いや、それは恋の話か。
ま、今回はね、「アジング」というやつでございますよ。アジ、つまり鯵、庶民の味方にして、酒の肴にも朝の味噌汁にも大活躍のあの魚でございます。
で、今日はまた、見事な「雨予報」だったんですな。普通なら家でテレビでも見て、コタツでみかんと決め込みたいところですが、そこは筋金入りの釣りバカ――いや、釣り愛好家。
「雨? だから何だってんだ!」と意気込んで、合羽着込んで、長靴ズボンと決め込んで、えっちらおっちら海へ向かったわけです。
着いてみりゃ、案の定、釣り人ゼロ。貸し切り状態ですな。まるで「VIP釣り場」――誰もいないから、隣の人の視線も気にせず、のびのび竿が振れるってもんで。
さっそく始めてみたんですがね、これがまあ、なかなか渋い。
最初の一匹までが長い! 竿先がピクリとも動かないもんで、海に向かって話しかける始末ですよ。
「おーい、誰かおるかー?」「え、あんた誰や?」って、もう釣りじゃなくてコントですよ。
ようやく1匹釣れたと思ったら、それからまた沈黙。
気がつけば、空からは雨、心にも雨、バケツの中はスカスカ。最終的に釣れたのは――6匹!
いや、釣れただけマシなんですよ。でもね、16匹を想像してた身としては、心の中では「あと10匹はどこ行った!?」って探偵張りの葛藤が巻き起こってるわけです。
それでも一応、海に向かって言いましたよ。
「今日はこれくらいで勘弁しといたるわ!」――ってね。
でもね、海は何も答えない。だって魚ですから。――当たり前だ。
てなわけで、雨の日の釣りは、釣果も渋けりゃ心も渋い。だけど、それでもまた行きたくなるのが釣り人の性(さが)――というお話でございました。
どうも、お後がスカスカで失礼いたしました。