2月12日 ドラマはラストに
北西の強風が、吹き付けていた。

「底は取れますか」

「何とか取れますけど、厳しいですね」

強い風とウネリで揺れる船上で、牛衛さんが頑張っている。

「来た!やっと来たよ!待ってたよ!」

竿が大きく曲がり、針掛かりした獲物が全力で走り出した。

「今日も風が吹いているかな…」

早朝、そんな気持ちで見に行った海は、無風べた凪だった。

「牛衛さん、出られますよ」

「吉田さん、行けますよ」

お二人に直ぐに連絡して、7時30分過ぎに久々の出船。

海は波も無く、風も無く、船を走らせていて気持ちが良い。

「これまで吹き続けた風で、水温が下がっているかも知れませんね」

吉田さんと牛衛さんが、ポイントにはいると直ぐに釣り開始。

潮は、沖に払い出す下り潮。

速さは0.5ノット前後と緩やかだ。

最初に入ったポイントも、次に移動したポイントも時折ヒットするのはエソ。

「今日も、エソが来るか…」

何となく、嫌な気持ちになってくる。

「ポイントを替えましょう」

船を北西方向に走らせる。

魚探には、海底付近にベイトが集まっている様子が出ている。

「海底から少し浮いて、集まってますね」

吉田さんにアタリが来た。

上がってきたのは。35センチはありそうな良型の鰺。

「これくらいの鰺なら、嬉しいですね」

今日、最初の釣果に、思わず笑顔が出る。

次のアタリも、吉田さんに来た。

ガンゾウヒラメが、上がってきた。

「鰺みたいな引きでしたね」

「そうでしたよね。てっきり、鰺かと思っていました」

静かに釣りをしていた、牛衛さんにアタリ。

上がってきたのは、アヤメカサゴ。

「小さいな…」

今日の渋いアタリが続く中で、ポツポツでは有るが、お二人にアタリが出始めた。

「ガツンと来るアタリが欲しいな」

吉田さんも、牛衛さんも、釣りの条件としては厳しい中で、休まず竿を振り続ける。

午前10時を過ぎる頃から、徐々に北西の風が強まり始めている。

時折、風向きが真北になったりして、風が起こす波が高くなって来ている。

吉田さんにアタリが来た。

「鯛のような感じですね」

上がってきたのは、イトヨリダイ。

「白身で美味しい魚ですね」

次も吉田さんにアタリ。

上がってきたのは、ウミゴイ(オジサン)だった。

「このオジサン、先日仲間との飲み会で刺身にしたら、最初に無くなりましたよ」

「美味しいと聞いてますよ」

しっかり血抜きをしてクーラーへ。

吉田さんが、少しずつ調子が上がってきた。

「最初のポイントに戻って、もう一度アタックしてみませんか」

吉田さんと牛衛さんの了解を得て、最初のポイントに戻る。

ここに、冒頭のドラマが待っていた。

一段と強く吹き始めた北西の風を受け、吉田さんが鯛ラバ、牛衛さんがジギングで攻める。

「最干潮から、潮が動き始めています。ベイトが増え始めています」

「ベイトが立ち始めて、何かが居るかも知れません」

「底は取れますか」

「なんとか取れています」

「ベイトが、海底から浮き上がっています」

この後、牛衛さんの声がした。

「来た!来たよ!」

リールから勢い良く、ラインが出ていく。

「止まらん。糸が出る」

「止まったけど、寄せられない。動きは感じています!」

「船で追いかけましょう!」

船を走らせ、ラインを回収する。

「揺れるから、滑らんでよ!」

「了解!」

吉田さんが、タモを持って用意している。

獲物が少しずつ上がって来始めた。

獲物の抵抗も、凄い物がある。

牛衛さんが手に持つ竿が、今にも折れそうだ。

「頑張れ!」

獲物が船の真下に来た。

「チャンスだ!」

「あっ!」

牛衛さんの大きな声がした。

獲物が最後の抵抗を見せたその時、ラインが切れた…。

「何号…」

「PE3号…」

後少しまで来たのに…口惜しい…。

「ごめん。切られた」

牛衛さんが、口惜しさをこらえている。

私たちも声にならないほど口惜しい。

「大丈夫。次は必ずリベンジ出来る」

慰めにも成らないけど、こうとしか言えなかった。

北西の風が益々強くなったこともあり、口惜しい気持ちを残して帰港した。