開進丸
7月20日南風とウネリ
老漁師から「南風が吹くと、魚は釣れない」と、良く聞かされていた。
「何で、南風やと魚が釣れんとな」
「風が悪りいかいね。魚を散らす風やとよ」
「どん風なら、良いとな」
「北風の時は、魚が釣れるやろうがな」
「何で北風は魚が釣れるとな」
「魚を呼ぶ風やとよ。ウネリも、そんなに立たんどがな」
釣りの理屈では分からない、長年、海と風を見てきた、老漁師の言葉だ。
今では、80歳を過ぎて、海に出ることは無い。
今日も海上では、南風が吹いてきた。
朝間詰めの時間帯は、西よりの風が吹いていた。
「下潮は、どんな感じですか」
「イマイチ、動いてない気がしますね。抜けますね」
「上面は、0.6ノット前後で流れているけど、仕掛けは、真下ですか」
「潮が絡まないですね」
下り潮が、沖に払い出している様に見えるのだが…。
時間の経過と共に、流れが変わっていくのが分かる。
魚探の航跡が、一流し毎に北に向かい始めている。
「良い感じに変わりそうなんですけどね…」
加藤さんがポツポツと、鯖のアタリを捕らえ始めた。
しかし、鯖が連発してくる様な潮行きではない。
朝8時頃になると、風が西寄りから南に変わり始めた。
それと同時に、フワーッとした体を持ち上げられるような、気持ちの良くないウネリが入り始めた。
何故か、ベイト反応が出て来ない。
「ベイト反応が、此処まで出てこないのは、最近では初めてかな」
船首で、竿を出しているお客様が「どうも、気持ちが悪いですね」と、成ってきた。
潮の流れと、仕掛けの入り具合を見ていると、風と、潮行きがクロスしているように感じる。
風は南から北に吹き抜けて、潮は、西から東に払い出している様子。
「仕掛けが安定しないでしょう」
船を動かしながら、仕掛けが沖に出るように調整する。
時折、アヤメカサゴがヒットしてくる。
鯵、イサキ等のアタリが来ない。
近くでエサ釣りしている、船仲間に連絡してみた。
「どんなですか?」
「潮が止まったやろう。船がフラフラして、アタリがピシャッと止まってしまった」
「当たらないですか」
「全然、アタリが出なくなったよ」
「私たちも、アタリが出なくなりました」
「潮やな…。潮が動き出すとを待たんと仕方ねえかな」
エサ釣りも、苦戦している様子だ。
そうしている内に、風が南東に変わってきた。
気持ちの悪いウネリも寄せ始めて、沖の方では白波も出始めた。
アタリが出ない事もあって、他の流し釣りの船が帰り始めた。
「もう少し粘ってみますか」
「気持ちが悪いです…」
お客様の顔色が、元気のない顔色になってきた。
「帰りますか」
「申し訳ないですが…」
「大丈夫ですよ」
相方の方にも、了解を得て引き上げることにした。
風と潮が喧嘩する状況の時、釣りが厳しくなる。
波も、時には三角波になったりする。
「次に期待しましょう」
色々なストレスが、体調に影響することもある。
「次は、頑張りますよ」
帰りの船中では、少し笑顔が見えていた。