開進丸
7月29日口惜しさ残る
「来た!」
竿先に感じる大物の予感。
釣りをしていて、心地よい瞬間だが、もの凄いプレッシャーを感じる瞬間でもある。
頑張ってやり取りして「絶対取る」と、意気込む。
しかし、釣りは無情なもので、相手が一枚も二枚も上という事が多い。
「次こそは……」
逃げられた口惜しさだけが、心に残る。
早朝、鯖の入れ掛かりの時間帯。
その鯖の群を追い掛けて、何かが寄っていた。
ドラッグ音が凄い音を立てて、ラインが出ていく。
「船で追い掛けますよ」
船首に立つ鍋島さん。
しかし、相手の走りは止まらない。
「あっ…」
次の瞬間。10号リーダーが切られた。
「どうしようもない」と、分かっていても口惜しさが残る。
鯖がヒットして、力強く走り回るが、その比ではなかった。
気持ちを切り替えて、場所を移動する。
仕掛けも、ジグから鯛ラバに変更。
この気分転換が、思わぬ好釣果に繋がる。
レンコダイが、最初にヒット。
ウッカリカサゴもヒットしてきた。
直ぐに仕掛けを落としていく。
潮が上り潮に、変わり始めている。
大きくはないが、ベイト反応も良い感じで出ている。
次のアタリは、直ぐに来た。
マハタがヒットしてきた。
「良い感じのマハタですね」
鍋島さんに、笑顔が戻る。
良型の真鰺も、ヒットしてきた。
鯖のアタリは、続いている。
針掛かりした鯖を追い掛けて、大きなシイラが姿を見せた。
直ぐにジグを、シイラの居ると思われる方向に、投げ入れる。
「ヒット!」
シイラがジグに飛びついてきた。
針掛かりしたシイラは、力強くジャンプしたり海中深くに逃げ込んだりと、可成りの力で抵抗する。
時間を掛けて、ゆっくりと取り込む。
90センチ超の雌のシイラ。
力強い走りで、楽しませてくれた。
しかし、最近の傾向になっている、午後からの南東の風が吹き始めた。
そんなに強く感じてはいないが、徐々に強く吹き始める気がする。
鍋島さんに、再び、大当たりが来た。
海底付近を、力強く走っている。
ラインがズズッズズッと、重々しく引き出されている。
「今度は、取る」
ドラッグ調整をしながら、相手の走りの止まるのを待つ。
船の真下にある瀬周りを、走っている気がする。
「あっ…」
又しても10号リーダーが、ジグの結び目の所から切られている。
「あー…口惜しさが残る…」
大物は、掛けないと勝負できないが、勝負は五分五分では無い、相手有利が多い。
釣り人が「負けた…」となるケースが多い気がする。
「次は、取れますよ」
鍋島さんの気持ちを慰める言葉が、なかなか出てこない。
気持ちを切り替え、仕掛けを落とす。
レンコダイが、ヒットしてきた。
嬉しい釣果なのだが…。
南東の風も強くなり、上り潮も2ノット近くで流れ始めた。
段々と、着底も取りづらくなってきた。
「口惜しいですけど、帰りましょうか」
納竿時の潮色は、青味が増していた。