開進丸
6月6日風が変わる前に
「お早うございます。お久し振りです」
西村さんの爽やかな声が、早朝の船着き場に響いた。
「今日は、一日釣りをお願いしたいのですが」
「はい、一日出来ると良いですね。午後から、風が変わらなければな…と、思っています」
明日は、天気が崩れる予報になっている。
そんな時ほど、南よりの風が入りやすい心配がある。
「兎に角、午前中は鰺やイサキを狙って、頑張りましょうね」
ポイントに向けて、船を走らせる。
凪の海だ。
ポイントに入り、ベイト反応を確認する。
潮は、下り潮になっている。
まずまずのベイト反応が、魚探に出ている。
西村さんが、直ぐに仕掛けを落としていく。
「来ました」
一投目から、アタリが来た。
良型の真鰺が、上がってきた。
ベイトの正体は、真鰺のようだ。
2匹目、3匹目と、順調にアタリが出てくる。
しかし、鰺の顎は弱い。
少し型が良くなると、針外れも起こってくる。
タモ入れ直前で、外れる鰺もいる。
アタリが来れば「鰺だと思います」と、慎重に巻き上げる。
35センチから40センチクラスの鰺が、良い引きをして上がってくる。
時折、ウッカリカサゴが当たってくるのも楽しい。
「この引きは、鰺とは違う気がします」
重量感のある、時折、竿先を激しく叩くアタリ。
良型のイサキが、ヒットしてきた。
「良いですね」と、自然と笑顔が出る。
イサキがヒットした辺りに、船を戻す。
直ぐにアタリが来た。
これも、良い型のイサキだ。
鰺は、2桁以上の釣果は上がっているはず。
ポイントを移動して、反応の有る処を探っていく。
「何か、デカイのが来ました」
ドラッグ音が鳴って、ラインが引き出される。
竿が綺麗な弧を、描いている。
4キロクラスのニベが、上がってきた。
「真鯛かな、と思いました」と、笑いが広がる。
この頃になると、風が南よりに変わり始めた。
「風が、南寄りになってきましたね」
風を気にしながら、次のポイントへと移動する。
最初のヒットは、良型のイサキ。
「良い感じのイサキですね」
良型の真鰺も、ポツポツとヒットしてくる。
しかし、出船前に気になっていた「風が吹かなければ…」の不安が的中してきた。
南東の風が、徐々に強くなり始めた。
そんな中、西村さんに強いアタリが来た。
「イサキみたいですね」
竿先を叩く、強いアタリだ。
海中に姿を見せたのは、大きな真鰺。
40センチ超の大型真鰺だ。
南東の風が、益々強くなってきた。
「西村さん、今日は一日釣りは無理ですね」
「そうですね。時化てきましたね」
風が、もっと激しくなる前に帰港した。