開進丸
12月8日 ヤッチャッタ
「風が強くなるかもね」
「厳しくなったら、帰ってきましょう」
港を出るときは、久し振りのべた凪の海。
船は、仮面を滑るように走っていく。
心の中は「北西が強くなる前に勝負したい」と、少々焦り気味になっている。
脇坂さんも小野さんも、既にタックルの準備は出来ている。
最初のポイントは、ベイト反応は少ないが、海底から10メートル位上に波打ったベイトの帯が出来ていた。
「ちょっと、やってみようや」
お二人が直ぐに、ジグを落としていく。
上り潮が、北東に向かって流れている。
速さも0.8ノット前後と釣りやすいが、なかなかアタリが来ない。
2度流して、アタリが無い事から、ポイントを移動する。
少しずつ、北西の風が吹き始めているが、まだ強くなってはいない。
次のポイントの、ベイト反応は凄い。
海底から20メートル近く、立ち上がっている。
その一流し目に、脇坂さんにアタリが来た。
「この重さは、ニベかな」
ゆっくりとラインを巻き上げていく。
暫くすると、やや沖合で赤い魚体が浮き上がってきた。
ウッカリカサゴの老成魚。
2キロは超えていそうだ。
「こんなに大きいカサゴは、初めて見たような気がするね」
と、小野さんもビックリしている。
段々と北西の風が強くなってきた。
小野さんにアタリが来た。
最初の強いアタリが、途中で無くなった感じ。
巻き上げてみると、小さなエソが付いているが、もう一本の針が切られている。
「何やったどかい?」
直ぐに針を取り替えるが、この時には北西の風が強烈に吹き始めてきた。
「島影に入ろう」
移動して、少しでも風が避けられるところで竿を出す。
潟よりに、意外とベイトが集まっている。
「あれ、何か来たかな」
小野さんが、ラインを巻き上げながら首を傾げている。
「ラインが途中で止まった気がする」
兎に角、ラインを巻き上げていくと、海面近くに来ていきなり竿が曲がった。
「おおっ、何か来ている!」
ホール中にアタリ、こちらに向かって走っていたようだ。
強烈な走りに耐えて、巻き上げる。
「見えた!サワラや!」
海面近くで大きなサワラが反転した。
「あっ!切られた!」
大きなサワラが、リーダーを切っていくのが見えた。
「あいやー、ヤッチャッタ」
脇坂さんも、残念そう。
海面下1~2メートルだろうか、大きなサワラの姿はハッキリと見えた。
三人で「ヤッチャッタ…」と、悔しさを押し殺す。
「もう一度流しますよ」と、船を戻すが、益々北西の風が強烈になってきた。
「予報では風速12メートルになっています。帰りましょう」
北西の風に向かい、波飛沫を被りながら、口惜しい思いを持ちながら帰港した。