11月8日迷い潮

沖に出た時、北北東の風が結構な強さで吹いていた。

「長く此処には居られないかも…」

いつも吹いている風だけに、嫌な感覚が先立った。

出港が午前9時とゆっくりなだけに、無駄な時間を無くしたい。

潮は、上り潮が沖に払い出す流れになっている。

その速さは、0.5ノット前後。

流れの速さだけを見ていると、いかにも釣りやすそうな流れに感じる。

北北東の風に押されて、ウネリもやや高く、白波も立っている。

しかも、今日の潮は「迷い潮」になっていた。

一流し毎に、船が流れる方向が違うのだ。

ベイト反応の有る処を流したいのだが、上手く行かない。

ベイト反応の有る処に船を止めた時が、一番のチャンスと直ぐに仕掛けを入れてもらう。

Oさんにアタリが来た。

今日最初のアタリだけに、ゆっくりと上げて欲しい。

良型のカンパチが上がってきた。

「1キロチョイ位ですかね」

「まだ、これから型の良いのが来ますよ」

クルクル変わる流れの中、次のアタリは、仕掛けを巻き上げる途中に来た。

「早巻きに来ました」

走り具合から想像して「ハガツオみたいですね」と海中を覗く。

2キロ超のハガツオが、上がってきた。

このハガツオがヒットしてから、調子が一気に上がってきた。

色々な方向に流れていた「迷い潮」が、北から南に流れる下り潮に変わってきた。

船が流れる方向も、安定するようになった。

その速さは、0.6ノット前後になっている。

ベイト反応が出ている処は、海底に瀬があるわけでもなく、平らな場所。

ベイトの反応を逃がさないように、船の流す範囲を狭くする。

15分置きには、船を戻して行く。

距離にして、100メートルも無いだろう。

2キロ前後のカンパチが、連発してくるようになった。

クーラーの中に、カンパチが段々と増えていく。

Oさんも「二桁はカンパチを釣りたいですね」と、気合いが入っている

ジグも定期的に取り替える。

スローなシャクリに、少しアクションを付けて魚を誘う。

「来ました」

アタリが来るたびに、楽しそうなやり取りが続く。

ドラッグ音が鳴り、ラインが引き出される。

「この音が、たまりませんね」と、Oさんも笑顔になる。

今日は、2時には港に帰っていなくてはいけない。

短時間勝負の釣りだ。

気が付くと、北北東の風も弱くなっていた。

白波も消えて、ウネリも小さくなっていた。

「ラストスパートを掛けましょうか」

残り少ない時間の中、アタリは続いた。

「今日は、良い思いの釣りが出来ました」

「次は、苦戦するかも知れませんよ」

と、お互いに笑顔が出る。

「じゃ、帰りますか」

「はい、お願いします」

クーラーには、二桁のカンパチが入っていた。