10月14日午前も午後も
潮の色は、良い色している。

青みがあり、良い感じの上り潮だ。

潮が動いていないのは、予想外だった。

今日は、午後便もある。

「釣果が上がるのかな…」と、不安な気持ちになる。

魚探に出てくるベイト反応も、悪い感じではない。

釣りにとって、動かない潮ほど苦悩する潮はない。

朝イチに入ったポイントでは、めぼしいアタリは無く、次のポイントへと移動する。

次のポイントに入る頃には、又しても北東の風が強くなってきた。

次第にウネリが高くなってきた。

「また風か…」

最近、北東の強風続きで、ウンザリしている。

「仕方ない。内場に入りますか」

久家さんと相談して、安全を優先する。

内場には既に、他の船も移動してきていた。

流す場所が限定されるが、ベイトを探して船を流していく。

「何か来ました」

久家さんに、今日初めてのアタリが来た。

ゆっくりとやり取りを楽しんで、上がってきたのはガンゾウヒラメ。

「唐揚げが美味しいですよ」

一つテンヤで、真鯛を狙う久家さんの釣り。

根魚や海底に潜む魚を、エビで誘い出す。

次の前アタリが来た。

一つテンヤ用の竿先が、海底からのアタリを伝えている。

上がってきたのは、良型のイトヨリダイ。

アタリが、順調に出始めた。

次の当たりも直ぐに来た。

「何か来た。何か来ましたよ」

竿先を強く押さえ込むようなアタリ。

久家さんのアワセが入る。

最初から、ドラッグ音が鳴り、ラインが出ていく。

何とか走りを止めようとしたその時「あっ、やられた…」

リーダーが切られた。

真鯛と思われる大当たりを逃がした後、又しても、潮が動かなくなってきた。

「今日は、潮に苦戦しますね」

内場の中で、主立ったポイントの移動を繰り返すが、なかなかアタリに結びつかなくなった。

「今日は、引き上げましょう」

正午になり、午前の釣りを終えることにした。

港に帰り、船着き場で久家さんと反省会をしていると、午後からのお客様の車が入ってきた。

西井さん、四月一日さん、福田さん達だ。

久家さんと交代で、午後からの釣りに向かう。

「潮の動きが悪く、午前は苦戦しました」

「午後からは、ボーズも有り得るかもです」

港を出る前に、午前中の潮の状況を説明しておく。

大島の表に出ると、やはり北東の風が強い。

潮も、下り潮に変わっており、午前中と違って1.5ノット前後で流れている。

着底が取りにくい程の流れの速さだ。

風に煽られて、時折、高いウネリも寄せてくる。

午後からのベイト反応は、午前中よりも良い感じになっている。

四月一日さんに、最初のアタリが来た。

しかし、アワセを入れて巻き上げ途中で、アタリが消えた。

リーダーが切られている。

「切り口がザラザラしてますね」

この後、アタリが出ないこともあり、少し浅場にポイントを変える。

真北から、真南に流れる感じの下り潮。

大島と平行に流れる感じの潮だ。

その潮に乗せて、船を流していく。

西井さんにアタリが来た。

船首で竿を出している福田さんにもアタリが来た。

「ダブルヒットだ」

どちらも、強い引きで竿が綺麗な弧を描いている。

西井さんの竿が海面に突っ込む。

福田さんの獲物が横走りした瞬間、外れた。

西井さんは、頑張っている。

やがて、獲物の姿が見えてきた。

「カンパチです」

62センチ、2.6キロの良型のカンパチだ。

次の流しにはいると、四月一日さんにアタリが来た。

最初の走りで可成り走られていたので、巻き上げに少々の時間を要した。

重量感たっぷりの走りを見せている。

「大物ハタかも」と、色々な想像が働く。

上がってきたのは、オニヒラアジ。

67センチ、3.8キロの肉厚のオニヒラアジだ。

船を戻して、次の流しに入る。

魚探を見ていると、ヒットポイントが大体見えてくる。

「瀬が少し落ち込んでいるアタリで、当たってきますね」

すると、西井さんに又しても、アタリが来た。

西井さんの、全身を使った「鬼アワセ」が入る。

獲物は、真っ直ぐ下に突っ込む。

大きく曲がる竿。

鳴り響くドラッグ音。

釣り人の楽しみが詰まった瞬間だ。

やがて姿を見せたのは、ヒレナガカンパチ。

65センチ、2.7キロの良型ヒレナガカンパチだ。

船を流すたびに、アタリが来ている。

「魚に見切られるかな」

こんな思いもう有ったが、もう一度、同じコースを流してみる。

今度は、福田さんにアタリが来た。

これまでのアタリと違って、海底付近を強い力で走っている。

「船で追い掛けます」

福田さんに前に移動してもらい、船で追い掛ける。

「動かない」

獲物が瀬に入ったようだ。

船で回り込む。

「巻き上げられます」

福田さんが、リールを巻く手に力が入る。

獲物の重々しい走りに耐える。

「あっ…」

福田さんの、叫び声が聞こえた気がした。

針が外れていた。

これを最後に午後の釣りを切り上げる。

港に帰る船中は、連発した大きなアタリに話が弾んだ。

「次は取る」と、福田さんの声が力強かった。